ミセス・ロウのシンガポール/石垣島デュアルライフ

50代から二拠点生活。都会&田舎で暮らす。

アリババ創業者ジャック・マー氏失踪事件の背後にあるもの。

アリババの創業者ジャック・マー氏が失踪したそうだ。

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「そうだ」というのは、 10月後半に公の場に姿を現した後消息がまったく聞かれなかったにもかかわらず、 2ヶ月以上が経過した昨日になって一斉に世界のメディアが報道したからだ。

 

いま振り返れば、コロナ禍のまっ最中に超大型案件と期待されていたアリババグループ傘下のフィンテック企業アントの上場が、昨年11月直前にキャンセルされた時も様子がおかしかった。すでに新株入手の払込まで済ませたという人々に払い戻しまでしての上場中止という前例のない事態で、しかも総責任者であるマー氏の事情説明さえなかった。

 

それが昨日になってやっとウォールストリートジャーナル紙がこんな記事を発表。

jp.wsj.com

 

おそらく金融関係者は早くから事情を知った上で、共産党政府を恐れて記事にすることができなかったのだろう。とすれば、マー氏の失踪にしても業界内では周知の事実で、昨日になって何らかの中国政府の許可をとりつけて記事にしたと考えるのが自然だ。

 

おりしも2021年の米株式市場開始直前。昨日のNY株式市場のアリババグループ株価は、昨年末と比較して2.1%安の227.85ドルとなった。

 

世界的に影響力を持つ実業家の失踪という事実にとどまらず、それをマスコミが報道するタイミングまでコントロールされる国、それが中国だ。

 

この顛末を見ていて既視感を感じたのは、2018年9月に中国 eコマース2位の JD 創業者劉強東氏がアメリカ出張中にわいせつ行為を働いたとして逮捕された事件。 

 

劉氏は2015年に米留学中に知り合った19歳年下の女性(中国では「ミルクティーの妹」という愛称で親しまれ、可憐なルックスながらJDのファッション部門を率いる剛腕経営者でもある)と結婚したばかりだった。

 

案の定、わずか16時間後に釈放。その後も有罪になったという話は聞いていない。

 

しかし、会社の業績と同じく右肩上りで上昇していた株価は以前の最高値の半分以下に落ち込んだ。それから2年が経過した現在では当時の価格の4倍以上をつけており、この暴落と暴騰により莫大な利益を手中に収めた投資家が存在しているのは明らかだ。

 

同年7月には一代にして海南航空を中心としたコングロマリットを築き上げ、世界で170番目に大きい企業集団にまで成長させた HNA グループ総裁王健氏が出張中のフランスで事故死。 仕事で滞在していたはずなのに、なぜかプロヴァンス地方の鄙びた村に向かい、写真を撮ろうとして登った15 mの高さの岩から落ちて死亡と言う不可解な事故だった。

 

この事件後、海南島は中国観光の目玉スポットとして開発が加速し、混迷が続く香港の代替地として金融・貿易機能を担う経済特区に指定されるなど、さらなる経済成長が見込まれている。

 

昨年11月には、過去に中国最大の私企業に挙げられたこともある河北民企大午農牧グループの創業者の孫大午氏が家族や幹部20人以上とともに逮捕され、会社は政府が没収。

 

孫氏は長く人権派の弁護士らを支援しており、地元の人々の福利厚生のために会社の利益を還元してきた篤志家だった。これらの活動が共産党の逆鱗に触れたため、以前にも逮捕歴があり競合する国営農場との小競り合いが続いていたという。

 

この他にも習近平のコロナ対策を批判した不動産王の任志強が逮捕され禁固18年の判決を受けたり、ITを中核に南京福中グル―プを築き上げた楊宗義氏も逮捕されたりと、いちいち挙げていけばきりがないほど、大成功を収めた起業家たちが一夜のうちに全てを失う事態が中国では続いている。

 

一般的に彼らのような実業家たちは、政治的に党の方針に反したためその地位や富を剥奪されたと考えられているが、その一方で彼らが失脚した後に巨万の富を得る機会が一部の人々に与えられてきたという事実も見逃せない。

 

「 中国で大成功した実業家は共産党幹部の鴨にすぎない。 太るだけ太らせた後にフォアグラを食べるのは彼らだ」という主旨の文章を読んだことがある。

 

中国株式や中国市場に投資している方々は特に、センセーショナルな政治劇の裏でこれらの起業家たちが築き上げてきた富の行方も注視していく必要があるだろう。