ミセス・ロウのシンガポール/石垣島デュアルライフ

50代から二拠点生活。都会&田舎で暮らす。

孫さん、あなたのビジョンをもう一度見せてください。

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■絵に描いたような悪徳会社:ディディ

アリババに次ぐ史上2番目の規模の大型IPOと呼ばれて今年6月30日にニューヨーク株式市場に上場した中国配車サービスのディディ(滴滴出行)。

 

一時は18.01ドルの最高値をつけたものの、翌週7月4日には個人データの収集と利用に重要な違反があったと中国当局が発表して同社のアプリのアプリストアからの削除を命じたため株価が大暴落。現在は8ドル前後と低迷を続けている。

(禁止されたのは新規ユーザーのアプリダウンロードのみで既存顧客は引き続きサービス利用可能)

 

最初にこのニュースを聞いたときは、アリババやテンセントと同じく共産党内部の権力闘争で習近平が生き残るためのみせしめのためかと思ったのだが、先週のニューヨークタイムズの記事を読む限りではどうも違うらしい。

 

というか、このディディという会社、かなりとんでもない会社のようなのだ。

www.nytimes.com

 

 

どのくらいとんでもないかというと、

 

・ライバルを潰すためなら社員を使って平気でウソの予約を入れまくって営業妨害し、

・最大のライバルだったウーバーのドライバーには「ウーバーが中国から撤退することになったからうちで働くように」とウソのメッセージで引き抜きにかかり、

・ウーバーが撤退を余儀なくされると丸抱えでそのビジネスを買い取ってドライバーや技術を手に入れ、

・ドライバーによる暴行殺人事件が連続して起きたにもかかわらず再発防止に真剣に取り組まず、

・被害を受けそうになった女性がカスタマーサービスに電話をかけても対応する気配を見せず、

・安全を担保する法令も無視して守らず、ドライバーが警察に捕まるとドライバー個人に罪をなすりつける、

 

と、ニューヨークタイムズの記事が正しいとすれば、まさに絵に描いたような悪徳企業なのである。

 

それでもディディがここまで成長してこれたのは、配車サービス分野で中国政府が外資に代わる中国企業を育てたいと考え、たいていのことには目をつぶってきたからとニューヨークタイムズ紙は書いている。

 

ただしその我慢もここにきて限界になった、ということらしい。

 

■インドの有名スタートアップ、オヨもご同類

ここまで読んできて、はて、どこかで聞いた話だよなー、と考えていたら思い出した。

そう、こちらもインドで急成長してきたホテルチェーンのオヨ(Oyo)。

 

やはりニューヨークタイムズの昨年のこの記事によると、

 

www.nytimes.com

2013年に若干19歳の学生だったアガルワル氏が設立したオヨは短期間で急成長。またたく間に世界80カ国に120万室以上の客室を擁し、2万人以上の従業員を抱える一大ホテルチェーンにのしあがった。

 

しかし、その実態はというと、宿泊業許可を得ていないホテルや民泊レベルの客室を提供して、摘発されると警察や役人に賄賂をつかませ、ホテルホーナーにはなんだかんだ理由をつけて支払いをできる限り遅らせ、やっと支払ったかと思うといろいろ理由をつけて差し引いた金額しか渡さず、元従業員からは「組織風土が有害」とまで言われるレベル。

 

この記事が発表された2020年1月の時点ですでに、セコイア・キャピタルとライトスピード・ベンチャー・パートナーズという大口出資者でアメリカ有数のベンチャーキャピタルが出資を縮小しているが、その後ホテル業界を直撃したコロナ禍でさらにダメージ拡大。

 

さらに別の記事によると、7月には借り入れにより債務の返済を行うという自転車操業に陥っている模様。

jp.techcrunch.com

(記事中ではマイクロソフト社が500万ドルを出資と大きく扱っているが、5億5千万円なんてマイクロソフトからしたら塵のような金額でとても本気で出資しているとは思えず、単なるおつきあいだろうと推察する)。

 

現在はといえば、お膝元のインドではホテルオーナー離れが急速に進み、日本や中南米事業からも実質的に撤退した他、従業員も数千人単位で解雇しているそうだ。

 

というわけで、オヨもディディにも負けず劣らずこれまでの悪行が身に報い、の結末を迎えそうな予感いっぱいの会社である。

 

■孫さん、その投資先は本当に大丈夫ですか?

さて、上記2つの悪徳会社に共通するのは何だろうか?

 

答えは、孫正義率いるビジョン・ファンドはじめソフトバンクグループが巨額の投資をしているということ。ざっと調べたところでは、ディディには1兆円以上、オヨにも2千億円近くを出資しているとされている(合弁事業も入れるとオヨにはもっとつぎこんでいそうだが)。

 

やはりソフトバンクが1兆円以上の投資(支援も入れると2兆円以上)をした米ウィーワーク社が犯罪的経営者(と呼んでもいいと思えるほどの悪辣さ)アダム・ニューマン氏の経営により、企業価値470億ドルから2019年にはわずか80億円ドル(8,800憶円)の評価となり、それ以降も赤字を垂れ流し続けている現状を見ると、このままいけばディディやオヨも投資額を回収できるのは難しい状況であり、最悪のケースでは倒産もありうるのではないかと邪推してしまう。

 

この現実を見る限りでは、孫さんやソフトバンクが投資先の選定にあたり、企業のコンプライアンスや経営者の資質も含めた詳細な調査を行っているとはとても思えない。

 

TikTokを擁するバイトダンスがアメリカの標的になったり、アリババグループのジャック・マーが行方不明になっていたりと、ソフトバンクグループが大規模出資している会社や経営者に暗い影が落ちている現在、特に中国では、ただ成長しているから、利益が出そうだからという理由だけでやみくもに投資するのは非常に危険だろう。(孫さん自身も先月時点で中国への投資は当分見合わせと発言している)

 

彼が20代の頃から尊敬するビジョナリー経営者として孫さんの動向を見続けてきただけに、今のソフトバンク投資のビジョンなきビジョンを見ていると悲しくなる。

 

孫さん、その投資は本当に大丈夫ですか? 

 

もう一度原点に戻って、孫さんの描くビジョンを見せてほしい。