書評:『一生楽しく浪費するためのお金の話』by 劇団雌猫 篠田尚子 ~ オタ女子には絶対に敵わない。
「読んではいけないものを読んでしまった…」というのが率直な感想です。
ジャニーズ、韓流、宝塚、等々とオタ街道をひた走り。消費ならぬ浪費道に邁進するアラサー女子たちが、自らも『Myojo』時代からオタ沼にどっぷりはまっている楽天証券の篠田尚子ファンドアナリストに、浪費しながら老後資金を貯める秘訣を聴くという構成。
まず、第一章では「健やかな浪費生活の3つの鉄則」として、
1.自分が使うお金は自分で稼ぐ(とにかく働き続ける)
2.使える国の制度は徹底的に使い倒す(NISAやiDeCoなど節税効果の高い口座を作る)
3.いざという時のための備えは3段階で(預金、保険、任意の年金を使い分ける)
というけっこう常識的なラインでの蓄財講座から。篠田先生専門の投資信託も「忙しいオタにはぴったり」と何度も推奨されていて商売っ気も垣間見せてくれるのはご愛敬。
しかし、この本の本領はここから。
お金事情のアンケート調査では、年収200万円未満から400万円までが全体の約3/4を占めるごく普通の女性のみなさんですが、未婚が約9割にもかかわらず、貯金総額のアンケートでは、貯蓄なしの16.2%についで100~199万が13.8%。1,000万円以上も6.3%とあり、けっこうみんなしっかり貯めています。
しかも毎月のオタ浪費額は3~5万円が一番多いのですが、次点は5~10万円と盛大な使いっぷりにも注目。
次章のQ&Aでは、篠田先生にオタ女子たちがいろいろな質問を投げかける、という形式ですが、篠田先生ぶっとんでます。使え、使え、のオンパレード。
クレジットカードはやめて現金にしなさい、と指導があるかと思えば、「オタ活動にクレカは必須なので死守」とか、「結婚はそれぞれの家族にとっても大イベントなのでお金がかかるのはしかたがない」とか、「結婚しても自分でしっかり稼いで、貯蓄20%ルールを守れば残りはオタク活動に全部使ってもOK」などなど。
目からウロコというより、イケイケすぎて怖い。しかも「一生浪費したいなら、もしかしたら3000万円では足りないかもしれないので、10年で1000万円貯めるのをご提案」と、貯めるほうもスケールが大きすぎます。
どうしてこれだけ使って、さらにこんなに貯金ができるのかの謎は「突撃!となりの貯金術」で明らかになります。
・日記に購入したものと購入した理由を書いています。衝動買いが減りましたし、買ったものに満足感が増しました。
・自炊! とにかく自炊。大きな鍋いっぱいに野菜と肉団子を入れたちゃんこ鍋(味つけは毎回変える)とご飯という食事をしてる。野菜食っとけばなんとかなると思っている。
・新しく服やオタクグッズを買う際に墓まで持っていきたいか」を自問自答する。買う段階ですらそう強く思えないものは、のちに手放すことがほとんどであると学んだ。
・ちょっとした飲み物やおやつを我慢するために「宝塚歌劇団の舞台写真は1枚330円」をいつも心に刻んでいます。
こんまりグルに教えを乞うまでもなく、彼女たちは捨てるようなものはそもそも買わない。そして「推し」だけのために稼いだお金を使うべく、日々慎ましく生活しているのです。
立派です! 尊敬します!
貯金のストーリー作りもユニーク。
「推しキャラに生活費を払っているという設定で専用の口座に毎月貯金」とか「推しキャラのポスターに切り込みを入れて、そこにお札を差し込んでおひねり出したつもりで貯金」とか、愛がなければ絶対に続かないストーリー続出。
そして最後の篠原先生のまとめでは、「楽しく使うために貯めて、さらに増やす…これほどまでにシンプルで前向きなモチベーションの保ち方ってないと思うんです」とダメ押し。100%オタ肯定。
この本を読んでいて、高校時代に川崎麻世のおっかけをしていた同級生や、韓国で大学教授しつつ嵐のコンサートのためにしょっちゅう日本に来ている知人や、ひどいときは1週間のうち5日以上、しかも土日はマチネ含め2回とかの頻度で観劇している友人(もちろん全員女子で私とほぼ同い年のおばさん)を何度も思い出しました。
彼女たちのあのパワーと目の輝きには絶対に敵わない、と何度思ったことでしょうか。
「一生楽しく浪費」には「何のために生まれてきたか」や「何のために働くのか」等々の人生の難問を瞬時に解決してしまうくらいのインパクトがあります。
怖いもの見たさ、で読むのなら最高の本だと思います。