ミセス・ロウのシンガポール/石垣島デュアルライフ

50代から二拠点生活。都会&田舎で暮らす。

『中年だって生きている』酒井順子著 ~ 時代とともに変わる独身子なし女性エッセイストたち

私が20代だった頃、ちょっとだけ年上の読書好きな大人の女性が支持する女性エッセイスト人気ナンバーワンは、群ようこさんでした。

 

群さんは1954年生まれ。団塊の世代より少し下で、80年代に椎名誠さんの『本の雑誌』でデビュー。一躍人気エッセイストとなって、「半径500m」の普通の独身女性の日常生活を淡々とした口調で語って同世代の女性たちの共感を呼びます。

 

群さんはその後もこのライフスタイルを貫き通して、着物で1年間暮らしてみるなど着物ブームの先駆けとなるようなエッセイも書かれていました。

 

群さんに続いては、80年代に高校生でエッセイストデビューした酒井順子さんが90年代のバブル期からポストバブル期にかけて躍進。

 

1966年生まれなのでちょうど群さんの一回り下。同じく独身で一般人と変わらない普通の生活がメインの日常エッセイを書くも、酒井さんの場合は群さんと比べて社会性が高いのが特徴です。

 

『負け犬の遠吠え』や『子の無い人生』など、ある意味では自虐ネタともいえるエッセイで幅広い読者を獲得しました。女性誌にとどまらず、おじさん週刊誌にも連載をもつなど活躍の場が広いのも酒井さんの持ち味です。

 

その後を継いで現在、人気急上昇中なのが、ラジオ・パーソナリティー出身のジェーン・スーさん。

 

1973年生まれの団塊ジュニア世代。酒井順子さんも参加の対談集『私がオバさんになったよ』では、脂が乗り切ったおばさん世代の旬の女性たちとのトークが話題に。スーさんは群さん、酒井さんと同じく独身ながら家事をほぼ担ってくれているという男性パートナーと同居していて、新しい時代の到来を感じます。

 

と、このように3人の名女性エッセイストを比べてみると、この40年ほどでいかに独身子なし女性エッセイストと彼女たちを取り巻く環境が変化したかという、時代の流れをつくづく感じます。

 

最近の群さんのエッセイのテーマは漢方薬をはじめボディケアがメインで、初老女性たちの参考になる体験エッセイが主になってきていますし、酒井順子さんが書かれた本書も更年期前後の女性たちの視点からみた日常。女性の老いがメイン・テーマ。

 

女性の老化に関する具体的で現実的な話が、大手出版社の雑誌に掲載されるエッセイとして一般に受けれられるというのは40年前では考えられなかったはず(ジェーン・スーさんはまだまだ恋愛話に花を咲かせられる現役ですが、10年後には絶対先輩たちに続いているはず)。

 

もう一つ面白いなーと思うのは、周囲への視線が若い世代になるにつれてだんだん優しくなってきていること。

 

もちろん群さんが冷たいというわけではないのですが、どちらかというと恬淡として感傷的にならず日常を描くのがお上手なのに対し、酒井さんは年とともに涙腺が緩くなってきていることを告白し、通りがかりの旅行者のおばさんたちにも「素敵な思い出を作ってほしい」と胸のうちで熱く語ります。

 

さらにジェーン・スーさんになると、人生相談のときの相談者への心のこもった励ましにとどまらず、対談集でもそれぞれの対談者から人間愛にあふれる言葉を引き出していきます。ましてや自分自身のパートナーに注ぐ眼差しは言わずもがな。スーさんはほんと優しい!

 

こうしてみていると、やはり確実に時代は変わってきているのだな、と改めて感じます。女性が社会で男性と伍して生きていくために自分を壊してしまうまで頑張り続けたり、それを避けるために社会的な関りをできるだけもたないよう努めたり、言葉を慎重に選び抜いてどこにも角を立てないように気を配ったり。そこまでしなくても、自然体で暮らして、書いても、男女ともに共感を得られるエッセイストの時代になってきているのではないかと思うのです。

  

 

 中年になっても不吉さをまき散らさないでいられる人というのは、してみると「安心して老けていく人」なのだと、私は思います。

  

と酒井さんが本書で語るように、以前は25歳で「クリスマスケーキ」(25日には誰も欲しがらない)と呼ばれ、結婚したらしたで「親に従い、夫に従い、子に従い」を期待されていた女性たちが、その世間の期待に対する消極的な拒否反応として選択してきた「独身子なし」人生。

 

そんな人生の後半戦に入った中年女性たちが、心安らかに年を取っていくための心構えを説き、エールを送るのが本書だと思います。