ミセス・ロウのシンガポール/石垣島デュアルライフ

50代から二拠点生活。都会&田舎で暮らす。

「北方領土」に素朴な疑問

「北方領土は戦争で取り返すしかないのでは?」と酔っぱらってからんだ若い国会議員が所属政党を除名処分になりました。

 

なんだかなーと思いますが、日本の政治家たちがなんだかんだとこだわってきたこの「北方領土」問題、私としては、この議員をはじめ、なぜこの領土問題に日本の政治家たちがこれほど拘泥するのか理解できません。その理由は以下の通りです。

 

1.2019年現在、北方領土に日本国籍をもつ日本人は誰も住んでいないそうです。戦後、ロシア人と結婚して日本に帰国せずに残ったり、日本人の血をひく2世や3世たちは住んでいるそうですが、彼らのアイデンティティはすでに日本人とはいえないでしょう。

 

逆に、現在この島々には、1万人を超える数のロシア人が住んでいます(歯舞群島を除く)。その中にはこの土地で生まれ育った人々も少なくないはず。

 

もしも北方領土が政府の言う通り日本に返還されることになったら、このロシア人たちは日本人になるのでしょうか? それともロシアの他のどこかの土地へ強制移住させられるのでしょうか? 彼らが通う学校では日本語の授業が行われることになるのでしょうか? 役所の書類はすべて日本語になるのでしょうか?

 

誰も人が住んでいない尖閣諸島や竹島と違い、北方領土にはすでにロシア人が住んでいるのであり、彼らにとってはここが故郷です。同じロシア人の中には「日本が大金を払うのなら北方領土返還してもいい」という人が少なからずいるそうですが、その人たちはここに住んでいる同胞たちの生活や将来を考えているのでしょうか?

 

いずれにせよ、日本人が住んでおらず、多くのロシア人が実際に何十年も、数世代にわたって住んでいる土地を日本の領土なのだからそのまま返還しろといっても無理があります。

 

反対にもしもいざ返還となったら、どんな日本人がここに住むのでしょうか? 冬は氷点下20度以下になる北海道の郡部に住んでいる友人がいますが、彼女の息子たちはすでに家を出て都会に移住しており、近隣は過疎化がかなり進んでいるそうです。

 

北方領土も凍てつく土地です。ロシア領ですからインフラも日本よりだいぶ劣っているでしょう。ここに税金を投入して日本なみのインフラを整備しても、いったいどれだけの日本人が移住して生活するのでしょうか?

 

「住人」という観点からみて、北方領土は戦後74年を経て実質的にはロシア人の土地となっている。であれば、ロシア人からしたら「譲渡」はあるかもしれませんが、法的所有権は日本にあったとしても無償で「返還」という事態にはなるはずがないと思います。

 

2.北方領土問題には、国防権、漁業権、天然資源の採掘権などが絡んできますが、このようなこそこそロシアの「条約違反の違法占拠である」、という事実を逆手にとって日本に有利に交渉することはできないのでしょうか?

 

現段階では、日本はこのような権利を行使できていないわけで、ロシアはその権利を享受している。そこをタダでよこせ、と言っても私がロシア人だったらうんというわけがありません。このような権利を日本に認めるなら、応分の見返りをよこせと言うに決まっています。

 

逆に、巨額の見返りを支払って返還してもらっても、それは取引による譲渡、つまり「土地の購入」であって、日本政府が主張している法的根拠による「返還」ではないはずです。もし見返りを支払うのが嫌だというのであれば、それこそ彼の議員が言うように戦争という力づくの手段しか選択はなくなる。

 

もちろん、ここに先祖のお墓がある方々などが訪問したいというのはわかりますが、ビザなし渡航という形で現在すでに日ロ間の合意ができているわけです。その他の案件についても交渉は可能ではないでしょうか? 費用対効果を考えて、したたかに計算&交渉する余地はないのでしょうか?

 

ひたすら「領土」という概念にこだわるのではなく、実質的に日本という国にとって有益な権益を探りつつ、少しでも有利に交渉を進めるのが外交というものではないでしょうか?

 

3.北方領土に関する世論調査はいつも「北方領土問題を知っているかどうか?」とか「四島返還か二島返還か?」「返還運動に参加したいか?」というような設問ばかりになっていますが、私の知る限り、「北方領土返還は必要だと思うか?」という世論調査はなぜか見当たりません。

 

心から北方領土を返してほしいと願う日本人はいったいどのくらいいるのでしょうか? 私が友人と話をしていて尖閣や竹島の話は出ることはあっても、北方領土の話というのはまず出ないのですが、私の周囲だけが特殊なのでしょうか?  一般的な日本人は違うのでしょうか?

 

平成30年度の北方領土関係の予算は16億8千800万円。このうち13億2,200万円と約8割を占めるのが、件の議員が参加して問題を起こしたビザなし交流のための飛行機チャーターなどの費用で、それ以外は返還にかかわる啓蒙活動費用が大半です。

 

裏を返せば、啓蒙活動をしなければ北方領土問題は日本国民に忘れ去られてしまう、ということではないでしょうか?

 

実質的な活動である2017年度の4島ビザなし交流は9回で参加者がのべ501名。ロシア人による日本訪問及び、報道関係者やお役人や政治家などの関係者などを含む数字ですから、実質的にどのくらいの元島民の方々が参加されたのかわかりません。推測の域を出ませんが、せいぜい数十人といったところではないかと思います。毎年、そのためにこれだけの税金が使われています。

 

私たち日本人が日本という国で安心して暮らしていくにあたり、北方領土やこれらの国家事業は本当に必要なのでしょうか? このために多大な予算を組んだり、総理大臣はじめ政治家たちが少なからぬ時間を費やすより、もっと他にすべきことがあるのではないでしょうか?

 

4.「戦争しかない」と言った若い議員は、常々心中で考えていたことを酔っぱらって口にしてしまっただけではないかと思います。

 

私は「国防」のためには戦争をしなくてはならない局面もあると考えます。そのためには軍隊が必要であり(自衛隊はれっきとした軍隊ですし、先日もシンガポールに他国の軍隊とともに招かれていました。広報官の方は堂々と英語でスピーチされ、日本人としてとても誇らしく思いました)、徴兵制もやむを得ない。

 

特に日本では今後若年人口が減っていくのですから、若い男子だけに国防の大任を押し付けることなどとうていできません。老若男女問わずの徴兵こそが日本の選択すべき道だと思いますし、私自身も非常事態となれば真っ先に志願します。若くないですし力もありませんが、兵糧の在庫管理や物流などロジスティックスは得意。いざとなれば最前線でコックだってできます。

 

しかし、それはあくまでも「国民」とその国民が生活する「土地」を守るためであって、日本人が誰も住んでいない「領土」をめぐって戦争をし、自衛隊員の方々を筆頭とした、地球より重い国民の命を失う危険を冒すのは本末転倒でしょう。

 

尖閣や竹島を守りたければ、とにかく外交の力を最大限駆使して戦争にもちこまないようにするしかない。いわんや現在ロシア人が居住する北方領土をや。

 

もしも彼の議員が言ったように、ロシア人が現在住んでいる北方領土を戦争によって奪還しようとするなら、その土地を生活の基盤にしているロシア人たちの「国防力」によって日本人の貴重な命が失われることも厭わないということです。

 

              *******

 

これだけ釈然としないものがある北方領土返還問題。まず「返還」ありきではなく、日本国にとって本当に四島の返還が必要かつ最善なのかどうか、国会やメディアをはじめ、この事件を好機に、広く率直な議論をしてほしいと思います。