ミセス・ロウのシンガポール/石垣島デュアルライフ

50代から二拠点生活。都会&田舎で暮らす。

見えてきたインバウンドの「食」の課題

f:id:gotocord:20190708094813j:plain

沖縄の離島で夏季限定のカフェ&レストランを開業して3年目。

 

6月は家族が一緒に滞在しており、友人やカナダの親戚一家が訪ねてきたりしていたので昼のみの営業でしたが、今月に入ってからは夜のレストラン営業も再開し、朝から掃除に仕込みにそれなりに忙しい毎日を送っています。独りで切り盛りしているので体力的には大変ではありますが、新しく来ていただいたお客様や、一昨年、昨年にいらしていただいたお客様に再訪いただいてお話をするのが大きな楽しみです。

 

土地柄、お客様は半分が地元のお客様で、残りの半分は観光客の方々。中でも観光客の方々は欧州を中心としたインバウンドのお客様が半分以上を占めるのが特徴です。

 

看板やメニューをすべて日本語・英語表記にしていたのは最初からですが(香港や台湾からのお客様も多いので1年目は中国語も書いていましたが、さすがに大変すぎてギブアップ)、昨年からはメニューの内容も表記もかなり変えてきました。というのも、欧米や台湾からのお客様にベジタリアンやヴィーガンの方々が多いのに気がついたからです。

 

主として欧米の方々は環境保護や動物愛護の観点から、台湾の方々は宗教的な理由から(インドの方々も含む)、ベジタリアンやヴィーガン食生活を実践している方が多く、肉や魚の入った料理を一切食べません。

 

さすがにこの程度の知識はあったので当初からメニューにはベジタリアン対応の料理は入れていました。しかしこのような方々は他に食事できる場所がなく、毎日通ってくださるため、いつも同じ料理を出すわけにもいかなくなり、ベジタリアン/ヴィーガン対応メニューを増やした結果、半分程度が肉・魚(出汁や調味料も含めて)をいっさい使っていない料理となりました。

 

昨年いらしたあるアメリカ人のお客様が話してくれたエピソード。

 

ある普通の居酒屋さんに入って「ベジタリアンなので食べられる料理を出してください」とお願いしたところ、豆腐にハムの細切りが載ったものが出てきた。「これは肉が入っているのでダメです」と返したところ、今度は削り節が載って出てきたとのこと。さすがにそれ以上言うのも申し訳なく、仕方なく削り節を取り除いて食べたと言っていましたが、確かにありそうな話です。必死に対応しようとした居酒屋の方もお気の毒だなと思いました。

 

もう一つ気がついたのは、欧州からの観光客の中に、中東などイスラム教国出身でヨーロッパに移住した人々の2世、3世の方々が増えてきているということです。

 

たいていカップルや友人同士で来られるのですが、フランス語やドイツ語を流暢に話しているのでぱっと見ただけではそうとわかりません。しかし、よくよく顔つきや瞳の色を見ると、鼻が細くて高く、目の色は狼のような美しい金色をしていたりして、どこか純粋なゲルマンやラテンの方々とは違う容貌をしています。

 

彼らは60年代や70年代にトルコやイランなどから移民してきた両親や祖父母の元に生まれた人々で、教育は欧州で受けているので考え方はほぼ欧州人と同じ。パートナーや友人はたいてい生粋の欧州人です。ただ、生まれながらの宗教や家庭環境のせいで、豚肉は決して食べず、醤油が入った料理も苦手なようで慎重にメニューを選んで注文されます。

 

おかげで、今年メニューに加えた中東料理のファラフェル(ひよこ豆のコロッケ)入りピタサンドは人気メニューとなり、ピタパンを一回に焼く量も最初作っていたのから倍量に増やしました。意を決して購入したキッチンエイドの業務用ミキサーがフル回転しです。

 

ベジタリアン/ヴィーガンや豚肉を使わないレストラン(欧州人のイスラム教徒2世、3世の方々の多くは、東南アジアの厳格なイスラム教徒と違い「ハラル」認証までは要求しません。「No pork or lard used/豚肉、ラード使っていません」で十分)はまだまだ日本では少なく、沖縄の離島ではもちろん、東京や大阪などの大都会でもけっこう食事に不自由しているようです。

 

インバウンドの観光客を「アジア」や「ヨーロッパ」「北米」などという括りでみていると、このような一見マイノリティではあるけれど、じわじわと数が増えている人々のことが見逃されがち。しかし、「また日本に来たい」と思っていただくためには、食のおもてなしは不可欠。爆買いが一巡した後、このようなお客様たちにリピーターとなっていただくためには、ほんの少しのメニューや食材の工夫でも効果があるのではないかと思います。