ミセス・ロウのシンガポール/石垣島デュアルライフ

50代から二拠点生活。都会&田舎で暮らす。

飲食業界で台頭するLGBTシェフたち

 生き馬の目を抜く飲食業界。

 

数多のレストランやカフェがオープンしては閉店し、一世を風靡したシェフも後進の料理人にその座を明け渡す…。という下剋上の業界にあって、ここ10年ほどで特にその活躍が目立つようになってきたLGBTのシェフたちを少しだけ紹介してみたいと思います。

 

アン・バーレル(Anne Burrell)

www.foodnetwork.com

アメリカの料理専門チャンネル、フードネットワークの看板シェフの1人。

 

アメリカ版「料理の鉄人」で鉄人シェフのアシスタントを務めた後、自らの冠番組をも
つ人気者に。アラフィフで貫禄たっぷりな肝っ玉母さんキャラですが、かなり早い段階でレズビアンを公表。その後も人気は衰えず、スター・シェフであり続けています。

 

彼女の番組で紹介される料理は、どちらかというとシンプルで伝統的なアメリカ料理。それほど高度な技術が要求されず、忙しいワーキングマザーでも作ってみようかと思わせるものが多いですが、ちょっとしたコツなども教えてくれ、さすが経験を積み上げたプロ、と唸らされます。

 

クリステン・キシュ(Kristen Kish)

www.instagram.com

米リアリティ番組「トップ・シェフ」 で史上2人目の女性トップ・シェフに。アジアンな風貌は韓国生まれ故ですが、生後すぐにアメリカ人の養親に引き取られたため、料理のバックグラウンドにアジアの影響はなく、調理学校で学んだのも作るのも、正統派フレンチ&イタリアンです。

 

特筆すべきは彼女のユニセックスでエキゾチックな風貌。高校生の頃モデルをしていたというだけあって、華奢でスレンダーな体型は百戦錬磨のシェフたちに混じってもひときわ目をひきます。そんな彼女をテレビ業界が放っておくわけがなく、有名人になってからは旅番組のホストとして数年間活躍していたようです。

 

2018年には満を持してテキサス州オースティンのLine Hotel内にレストランArlo Greyを開店。一流シェフへの道を着実に歩んでいます。

 

ヨタム・オットレンギ(Yotam Ottolenghi)

ottolenghi.co.uk

ロンドンっ子であればカジュアル・レストラン&デリカテッセン「オットレンギ」の名前を知らない者はいないほどの有名店オーナー・シェフ。

 

エルサレム生まれ。父親はヘブライ大学の教授、母親は高校の校長というエリート一家に生まれ、テル・アビブ大学で比較文学の学位を取得するも、ゲイとしての自由と料理への情熱をかなえるべく欧州に移住。

 

野菜を中心としたメニューには中東やヨーロッパのスパイスやハーブを多用し、プレゼンテーションもひたすらお洒落。抜きん出たアーティスティックなセンスと飾らない穏やかな人柄がそこここに感じられます。

 

彼のキャリアは順風満帆で、パティシエとして複数の有名店で経験を積んだ後、2002年にノッティング・ヒルにデリカテッセンの店を開店。瞬く間に有名店に。ガーディアン紙に執筆を始め、2008年に出版した『Ottolenghi』が10万部を超える大ベストセラーに。

 

その後も旺盛に執筆活動を続ける他、料理番組のホストを務めたり、店舗数も順調に伸びるなど、イギリス料理界における彼のステータスは不動のものとなっています。

 

私も彼のレシピが大好きで著書を数冊もっていますが、特に独特のスパイスづかいのスィーツ・レシピはベーキングに欠かせません。中東にとどまらずアジアやインドなどさまざまなエスニック料理をヨーロッパ風に小粋にアレンジする技には、いつもただただ感動するばかりです。

 

 

 

ニック・シャルマ(Nik Sharma)

www.abrowntable.com

デジタル時代にふさわしい新しいタイプの料理ブロガー&フォトグラファー。ムンバイ出身、サンフランシスコ在住。

 

インドのスパイスや伝統料理を洋風にアレンジした独特のレシピもさることながら、彼の料理ブログ「A Brown Table」の最大の特徴は、黒を基調にしたアーティスティックな写真の数々。ときどき映り込む、料理をする彼の手もかなり暗い褐色で、陰影のある画像の表情が「ブラック・イズ・ビューティフル」を体現しています。

 

そして昨年出版した初の著書『Season』はたちまち話題の本に。ニューヨーク・タイムズ紙にも取り上げられ、次世代スターの座を揺るぎないものにしつつあります。

www.nytimes.com

 

彼もまた、自身のゲイとしてのアイデンティティをカミングアウトできないインドから脱出するためにムンバイ大学在学中に奨学金を獲得してアメリカ留学。修士号まで取得した後、ワシントンDCで医学研究者として働いていた2011年にブログを開始し、こちらが本業になってしまいました。まだまだこれからが楽しみな30代。インド料理をベースにした新しいテイストの創作料理に熱い期待が寄せられています。

 

               *****

 

 

飲食業界もアパレル業界と同じく、今日では、セントラル・キッチン方式の大量生産やマニュアル化でコストを最低限に抑えて薄利多売に走るか、逆に、他のお店では決してマネできない独自のテイストとSNS映えするアーティスティックなプレゼンテーションでリピーターを獲得するか、の厳しい二者択一を迫られています。

 

その意味で、芸術的なセンスに秀でるLGBTの料理人たちは、時代のニーズに応えて頭角を現してきていると言えるでしょう。同時に、LGBTをなかなか公にできない中東やアジアから欧米に移民したシェフたちが活躍している点も見逃せません。

 

”Mine is the story of a gay immigrant, told through food."

「(私のブログは)食べ物を通じて一人のゲイ移民が語る物語だ」

  

と、ニック・シャルマさんが著書『Season』の中で語るように、今後は「LGBT」と「移民」が飲食業界の重要なキーワードになっていくような気がしてなりません。

 

 

www.mrs-lowe.com

 

 

www.mrs-lowe.com

 

 

www.mrs-lowe.com