コスメブランドなのかアートパトロンなのか? ~イソップの化粧水を最近使い始めました。
ある歌舞伎の女形の名優が部屋を綺麗に片付けているのを褒められて、
「年寄りはだでさえきたないものだから…」とその理由を語った、というエピソードを紹介しているのは、橋本治の『いつまでも若いと思うなよ』。
橋本さんが60歳のときのエッセイで、肉体が老いていくということがどういうことかを、いつものように縦横無尽な考察で語ってくれます。
かくいう私も、スキンケアなどこれまでほぼ無縁。シャワータイムにボディーソープで顔を洗った後、スーパーで買ってきた安い化粧水をはたくくらいがせいぜいだったのですが、加速度的に老化していく肌の状態をみるにつけ「年寄りはただでさえきたないものだからなー」と溜息をついていたものでした。
そんな時に出会ったのが、これ。Aesop(イソップ)のパセリシード抗酸化化粧水。
昨年ボランティアをしたSingapore Writers FestivalのスポンサーになっていたAesopが、Festival向けの小冊子と一緒にこの化粧水の他クレンジングオイルなど3本の試供品ボトルを入れたグディバッグを配っていたのです。
多和田葉子さんの短編小説はじめ、参加アーティストの詩や小説を英語、ドイツ語、中国語、朝鮮語、日本語などの多言語で掲載した小冊子は、内容はもちろん装丁もとても素敵で、いい香りもしました。
数日かけて小冊子を読み終わり、さてこのグディバッグどうしようかと思ったのですが、試供品ボトルは一見ひと昔前の医薬品の瓶みたいで、特に使ってみたいとも思わず(新しいものに対しては結構保守的なのです)、年末の家族旅行の際に初めて試してみたのでした。
これがいいんですね。
いろいろなハーブエキスが調合されていて、しっとりとしてべとつかず、つけたときに肌が喜んでいるのがわかる。小じわも心なしか少なくなるような気がします。いかにもインテリ白人好みなハーブ系の香りもナイス。
値段はこれまで使っていたものの数倍しますが、試供品が終わったところで200mlのボトルを買いに行きました。
接客はシンガポールらしくあっさりで、とりあえずメールアドレスだけ登録。それから週1くらいで販促メールが来るようになりました。が、これがまた化粧品のマーケティングなのかアートのマーケティングなのかよくわからない。
お薦めの本や映画、アート、旅などなど、格調高き英語とイラストで、本格的に格調高きアートばかりをご紹介してくれます。Singapore Writers Festivalの小冊子とほとんど変わらない内容。商品紹介はほんのお飾りのように付け足されているだけです。
ググってみたら、日本ではハンドクリームがインスタ映えする商品として売れてるみたいですね。常夏のシンガポールではハンドクリームを使う機会がほぼないですが、このブランド、高級モールにそこそこの出店数があることを考えると、私のような固定ファンがそれなりにいるのだと思います。
確かに品質はいいけれど、たぶんそれだけでは買わない。アートなイメージ戦略だけで効果が実感できなければ、やはりこれだけの金額は払えない。そのあたりの絶妙なバランスをキープしつつ、ブランドビジネスとアートパトロンを両立させている面白いブランドだと思いました。
とりあえず、個人的にはこの化粧水で少しでも自分のきたなさが中和されればいいなと願っています。