ミセス・ロウのシンガポール/石垣島デュアルライフ

50代から二拠点生活。都会&田舎で暮らす。

Life doesn't last. Art doesn't last.

現在、シンガポールのNational Galleryで開催されている「ミニマリズム」展のスピンオフ企画、1960年代に活躍して34歳で早逝した女性アーティスト、エヴァ・ヘスのドキュメンタリー映画「Eva Hesse」を観てきました。

 

 

ヘスはドイツのハンブルグ生まれ。

 

ナチスの迫害を逃れて幼少の頃アメリカに移住するも、両親は離婚し母は自殺。イェール大学でアートを学びニューヨークで活動を初めてまもなく彫刻家のトム・ドイルと結婚し、彼の仕事の都合でドイツに滞在。

 

再びニューヨークに戻ってからは夫と離婚し、孤独の中でポスト・ミニマリズムの作品を次々と発表。先進的な女性アーティストとして注目を集め始めたところで脳腫瘍が発見され、数度の手術の後、34歳で亡くなります。

 

たった10年間しかなかった彼女の活動を追った映画ですが、10代の頃にセブンティーン誌のモデルをつとめカバーガールにまでなった美貌なだけに、とにかく絵になる。

 

そして、環境の変化につれて彼女自身の作品がどんどん変わっていく様子が、まるで現在進行中の出来事であるかのように迫ってきます。

 

亡くなる間際、当時彼女と親交があったアーティストとの会話の中で、ヘスはこう語り、手にもっていたグラスを暖炉の中に投げ割ったといいます。

 

Life doesn't last.

Art doesn't last.

人生は終わる。

芸術も終わる。

 

彼女の私生活や健康状態とともに変わっていく作風。人生で終わらないものはない、アートでも終わらないものはない、が、そのまま作品に反映されます。

 

卒業してまもなくはモダニズムの影響を受けた平凡な抽象画を描いていたヘスは、ドイツ移住後、子供時代のナチスの悪夢にうなされながらも、アトリエにした繊維工場で床に落ちていたロープや織物のくずという新しい素材を発見。立体アートの世界へ向かいます。この頃の作品は色使いといい、モチーフといい、若々しさに溢れ、どこかユーモラス。

 

しかしニューヨークに戻って夫との不仲が取り返しのつかないところまで進行してしまう頃には、マンハッタンの工業地区で仕入れてきた金属の歯車や塩ビチューブなどを素材に、幾何学的な無機質な作品を多く発表。冷えきった心がそのまま読み取れます。

 

そして脳腫瘍の手術をしてからは、ラテックスやガラス繊維を使った非常に繊細で儚く、それゆえに陰影の濃い美しさが際立つ作品群を次々と作っていくのです。

 

上映後のスカイプを使った監督とのディスカッションで、「なぜラテックスような経年変化がしやすい素材を好んで使ったのか?」と質問したところ(チーフキュレーターも今回のミニマリズム展に入れたかったけれど、破損の恐れがあるため運搬ができずあきらめたと語っていました)、手術後に明らかに彼女の作風が変わり、デコンストラクション(脱構築)的な作品がメインとなり、その手法としての素材だったのではないか、と話してくれました。

 

布帛にガラス繊維とポリエステル樹脂を含侵させた上で、さらにラテックスをコーティングしたドレープが美しい晩年の作品は、ニューヨークのグッゲンハイム美術館にあるようです。

www.guggenheim.org

いつか直接見てみたい。