ミセス・ロウのシンガポール/石垣島デュアルライフ

50代から二拠点生活。都会&田舎で暮らす。

5月15日はストッキングの日

 

最近は様変わりしましたが、まだ東京に中国人女性の姿が少なかった数十年前、街でみかける日本人と区別がつかない彼女たちの見極めポイントの一つは「ストッキング」でした。

 

当時まだナマ足は一般的ではなく、日本人はもちろん中国人女性もたいていストッキングをはいていたのですが、日本人女性がはいているのはナイロン製、中国人女性のはいているのはポリエステル製が大多数。

 

日本人の足がつやつやと美しく輝いていたのに対し、中国人女性たちは残念ながらどんよりとした肌色のスパッツを穿いているかのようで、その差は一目瞭然でした。

 

女性ですから当然彼女たちにも違いはわかるため、日本のナイロンストッキングは垂涎の的。仕事や出張で中国に行くときの手土産には「ストッキングが一番」(仕事の相手が男性でも「奥様に」と差し上げられる)と言われていました。

 

というわけで、本日は「ストッキングの日」。1940年にアメリカで初めてデュポン社がナイロン・ストッキングを発売したのを記念して定められました。

 

これより以前、アメリカ女性のストッキングはほとんど日本製の絹を使用していたそうです。しかし発売以降たちまちナイロン・ストッキングは大人気となり、発売開始後4日で400万足、初年度だけで6,400万足も売れ、一瞬の間に高価で破れやすい絹のトッキングは時代遅れの無用の長物になってしまったのです。

 

www.smithsonianmag.com

こちらのサイトに世界初のナイロン・ストッキングの写真がありましたが、透けるハイソックスといったほうが近いかもしれません。今でもじゅうぶんはけそう。80年も前にアメリカの女性たちがとびついたのも頷けます。

 

真珠湾攻撃を契機とした日米開戦は翌41年の12月のこと。もしも1年半前にナイロン・ストッキングが発売されておらず、全米女性のストッキングがまだ日本の絹で作られていたとしたら、絹が輸入できなくなることを恐れて、ひょっとしたらアメリカが戦争に踏み切ることはなかったかもしれません。そう考えると、ナイロン・ストッキングは歴史を変えたともいえるでしょう。

 

ナイロン(Nylon)という名前の語源は、ストッキングが引っかかっても伝線(run)しない、"no run"からきているといいます。つまり、最初からストッキング用に開発された繊維のため、その特徴は、強くて美しいこと。

 

ストッキングに使用されるのは10デニールや20デニールといった極細ナイロンですが、実はこういう細いナイロン繊維を作るには高度な技術が必要です。

 

化学繊維はジョウロの口のような細いノズルから樹脂を押し出して作ります。このノズルが目詰まりすると不良品ができてしまいますし、ナイロンの場合は特に水を吸いやすく、空気中の水分によって樹脂の状態が変化するので製造がとても難しい。

 

ですから、繊維の製造技術が発達していない国ではナイロンがうまく作れず、「どこでも誰でも作れて安い」ポリエステル繊維で代用するしかありませんでした。そのため、ひと昔前の中国の女性たちはポリエステル繊維の特徴である透明度の低い、濁った色のストッキングをはかざるをえなかったのです。

 

現在の日本では、パンツやなま足の流行によりストッキングをはく女性が減少。ナイロン繊維を国内製造している会社も東レだけになってしまいましたが、それでもたまにはくストッキングにはクオリティの高い国産ナイロン素材を使ってほしいと思います。

 

ストッキングの日に、この素晴らしい繊維を発明してくれたデュポン社に感謝を捧げます。